ヤングチャンピオン烈Vol.6に掲載された読み切り作品。よんどころない事情から、早朝の新聞配達を任されることになった女性。ようやく仕事に慣れたある朝、近道のために突っ切った公園で、黒いワンピースを着たひとりの少女と出会います。無言で近付いてきた少女は、いきなり彼女にキスをして……。
カラス・女の子同士のキス・嘔吐・大量増殖・食物連鎖、という、前回よりややエログロ方向に針の振れた内容。だんだん地が出てきたのか、どこまでアリなのか確かめているのか。掘骨砕三ファンとしては、黒がいっぱいで画面が暗いのがいいぞ。羊水で濡れたり乾いたりのカラスの羽根の描きかたもすごく細かくていい。やはり掘骨砕三の筆力の真価はこういう緻密さにある。
あと、前回今回とやたらとたくさん描くのは、ぶつぶつとか虫ムシがたくさんある/いるとキモい、という、穏当に見せかけた不気味さの追求なのかもしれない。
えー、あと、余談というか、書きたいという欲望を抑えられなくなったので、ちょっと昔話をさせてください。いや、ちょっとじゃないな。すごく長い話です。
昔々、あるところに、絵本とおはなしという雑誌がありました。
絵本はいまでも単価が高いけど、僕が子供の頃は、一般家庭の平均所得との比較で考えると、たぶん相対的に今よりもっと高価だったんだと思う。地方都市では図書館のサポートも弱かったから、子供に絵本を読み聞かせたいけれども高くて買えない、あるいはたくさん買えないという需要は、子供を持つ母親の間で高かった。
そういう需要に応えたのが、たとえば福音館書店のこどものとも・かがくのともシリーズだったんだけど、もうひとつ、偕成社から、絵本とおはなしというすごい雑誌が出ていた。
絵本とおはなしのどこが凄かったかというと、この雑誌には毎月、市販されている絵本の縮刷版が何冊か、全ページまるごと収録されていたのです。いま考えるとすべぇアナーキーなんだけど、当時、日本では、著作権の概念が出版界の内部ですらまだ厳格に行き渡っていなかったのか、そういうのが通っていた。もしかしたら、そういうのが通ったギリギリ最後の時代かもしれない。この雑誌は判型も面白くて、最初は帳面みたいな細長い横長でした。
記憶を頼りに書いているから確かじゃないけど、この路線は1年程度は続いたので、さすがに国内の出版社には事前に話が通してあったんだと思う。しかし、著作権に厳しい海外の作家さんの絵本を収録し、関係者からクレームが入ったとかで(たしかはらぺこあおむしのエリック・カールさんだったような)、やはりというか順当にというか、路線を継続できなくなります。
この路線を続けられなくなった時点で、絵本とおはなしという雑誌の命運は尽きていたと言うべきですが、この雑誌はなぜかその後も生き残ります。おたくたちが萌え萌え言い出すはるか以前、1983年には、雑誌名をモエ(正確にはローマ字でMOE)に変更。テーマを絵本・メルヘン・キャラクター一般に拡大します(なお、モエという雑誌名は、当時人気のあったイラストレーター、永田萌さんに由来します)
モエは、メルヘンの光の部分だけにスポットライトを当てたような、尖った部分のまったく無い、鬼頭莫宏が読んだらさぞかし破壊と汚物誇示の黒い衝動を胸中でたぎらせるであろう雑誌で、一、二年に一回はかならずお定まりで宮沢賢治や岩崎ちひろの特集を組むような、創作系としては半端だし、メルヘンやファンタジー系としても深みに欠ける、ポジショニングがこれ以上無いほどふわふわした雑誌でした。
しかし、本誌にますむらひろしのアタゴオルシリーズが連載され、イラストやストーリーのほかに創作漫画のコンテストを開始した縁から、やがてコミック雑誌にも進出するに及びます。たしかあれはバブル期だったのかな? それも関係あるのかもしれない。これがコミックモエ。日本の漫画界のメインストリームからは皆無に近いほど切り離された存在なんだけど、たとえば、とっとこハム太郎のはるか以前にこの分野に先鞭をつけた、ハムスターの研究レポートの大雪師走は、コミックモエ出身です。あ、あと紺野キタもそうだ。
とにかく、ひとことで言うと、モエとコミックモエは無益な雑誌でした。十年近く読者だった僕には胸を張ってこう発言する資格があると思うのだけど、毒にも薬にもならないというのは、まさしくああいう雑誌のためにある言葉だと思う。幼年時代からずーっと読んでいたせいで、美しい綺麗なものだけの世界はそれはそれで不自然で不健康なんだな、美しい言葉に力をあたえるためには汚い言葉も知っていなくては駄目なんだな、ということを実感としてしみじみと学習できたので、僕の人生にとってまったくの無駄とは言いきれない存在ではあるのですけど。
で、なぜ長々とこんな話を続けたかというと、僕は今、無性にこのモエに掘骨砕三を放り込んでみたいんです。いや、僕は今現在のモエもしくはコミックモエがどういう状況なのかぜんぜん把握していなくて、ちょっとググってみたら、有名なしばわんこシリーズがモエ起源であることを知ってびっくりしたくらいなんですけど、それはともかく、過去のモエもしくはコミックモエみたいなお花畑雑誌がまだどこかに生き残っているのなら、そこに高度に擬装された掘骨砕三を突っ込んでみたい。
露悪的な意図がまったく無いと言ったら嘘になる。嘘になるけど、それよりもずっと強く、純粋に「ふつうのファンタジー」作家としての彼を、そういう読者層に見せてみたい。あとでエロ作家(しかもグロ作家)だとバレたらいろいろ不味そう、というか、これは間違いなく上連雀三平にコロコロコミックで連載させる以上の暴挙だけど、あの手の雑誌を読んでいる純真な子女の皆さんに、掘骨砕三の漫画を、「ちょっと不気味だけど魅力的な漫画」と思わせることができたら、これはきっとすごく爽快だと思う。きっときっと、ものすごく爽快だと思う。
ただ、ああいうお花畑雑誌の読者層は、純真な子女の皆さん以外に、いい年をしたメルヘンおばさんを数多く含有している気がするし、そういう人たちは怒らせたら極めてシャレにならない存在である気もするのですけど、まあ部外者が勝手に想像しているだけなので、なんら実害は無いのですヽ( ´∀`)ノ 見てみたいなあそういう状況。
参考
- ざっしかんそうぶん
- 雑誌感想アーカイブス:ヤングチャンピオン烈
- スゴイ作家の普通(?)のファンタジー──掘骨砕三『湖のひみつ』 (2007/2/21)
- えろまんがかんそうぶん
- [パクリ企画]歴史に残す価値がある(かもしれない)6冊の成年コミック (2007/3/19)
- 掘骨砕三の成人向け単行本レビュー:
- ひみつの犬神コココちゃん (2006/12/5)
- はえてる女の子 (2006/7/20)
- 夜に虚就く (2006/2/21)
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